2013年8月18日日曜日

「風立ちぬ」を見てきました

夏休み最後の思い出にと、「風立ちぬ」を見てきました。
一言で感想を申し上げると、前評判どおりこの映画は宮崎駿の「遺作」だと思いました。だってもう、好き放題やってるもん。新作を出す度に家族みんなで見に行くことが国民的行事になってしまった宮崎駿の映画は「家族で見に行ける」、「子供が見て楽しめる」といった制約の下にこれまで作られていたんだと思いますが。「風立ちぬ」はあからさまに子供が見ることが想定されていません。前評判で、子供が途中で飽きて映画館で走り回るという話を聞きましたが、そりゃそうなるよなと見て納得しました。
この映画は「コテコテの映画」なので、見るなら絶対に映画館で見るべきだと思います。映画が終わって席を立つときには宮崎アニメ特有の浄化作用みたいなのを感じたと同時に、飛行機に乗って空を飛びたくなりました。

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「風立ちぬ」の画面には、大正~昭和の日本の風景、乗り物(特に飛行機)、キレイ事だけでできたラブストーリーなど、宮崎駿の好きな物だけが出てきて、宮崎駿の好きなように展開します。「もう最後なんだから好きにやらせてくれ」と言わんばかりの好き放題ぶりです。そりゃこんだけ好き放題やって、自分が一番感動するような映画を作ったんだから完成したのを見て泣いたりもするでしょう。

特に、「女」の描き方の都合良さは男の僕が見てもどうかと思うくらいでした。普通に考えたら「アタシとヒコーキどっちが大事なの?」となると思うのですが(そういや「私の彼はパイロット」っていう、そのままの歌詞の歌があったな)。「文句一つ言わずにけなげに尽くす、弱くて、まもってあげたい」という、男目線で都合のいい女だけが描かれているのですよ。もちろん宮崎駿だって本当はこんな都合のいい女なんていないことくらい分かってると思いますが。「そんなことわかってるよ、でもこうしたいんだよ!」と宮崎駿は言ってるような気がします。
そして、ジブリ映画でたぶん最初で最後の濡れ場「来て…」ですが。僕もここは顔が思わずニヤけてしまいました。隣で見てたヨメも顔が半笑いでした。あとでヨメに聞いてみたら、「あそこは『キモっ』て思った」とすっかりドン引きしたそうです。これまで「性」なんていう物とは無縁のキレイ事の世界を何十年描いてきた宮崎駿が最後の最後で繰り出した濡れ場シーン。しかも100%男目線の都合だけから出てきたとしか思えない「来て…」というセリフ。のこのこやってきた親子連れをさぞかし凍りつかせたことでしょう。
だいたい、男女の間で恋が芽生えて成就するまでのネチネチしたプロセス(女子目線で見るとこっちの方がたぶん重要で、少女マンガってそこだけを基本的に描いてるのだと思うのですが。)に宮崎駿は全然関心が無いように見えるのです(宮崎駿の言い分としては「風が二人を結びつけた」なんでしょうが)。再会して数日でもう「結婚しましょう」にしちゃって、その後の「仲睦まじく愛し合う二人」っていうところだけただ描きたかったんだろうなという風に見えました。

「風立ちぬ」は宮崎アニメでは珍しく、主人公が男です。僕が思いつく限り主人公が男の宮崎アニメは「紅の豚」くらいですが。ポルコ・ロッソの比ではないくらい、「風立ちぬ」の二郎にはあからさまに宮崎駿自身が投影されています。禁煙ファシストに槍玉にあげられるくらいやたら煙草吸うのも、またそれがチェリーなのも宮崎駿そのままです。どういう経緯で庵野秀明が二郎の声をあてることになったのかよく分かりませんが、彼を後継者として意識していること(「ナウシカは庵野がやればいい」と宮崎駿は言ったそうな)と全く無関係ではないだろうと思いました。

「風立ちぬ」という映画の中で、風は帽子やパラソルや紙飛行機を飛ばしたりして出会いを作ったかと思ったら、風と一緒に空を飛んだり、風の中で機体がバラバラになったりします。もっと言うと、結核菌や米軍の爆撃機も風に乗ってやってきます。この映画での「風」というのは言うなれば「運命」とか「天命」とか、宗教的な言い方をすると「神」という言い方もできるでしょう。「風が吹いている限り生きねばならぬ」というのは、「天命がある限り、生きてる素晴らしさを味わって精一杯生きていきなさい」ということなんじゃないかと思いました。
これって漫画版ナウシカの結論と同じ事を全然別の映画を通して言ってるように僕には見えたのですが。だったら「庵野がやればいい」とか言わずに、自分の手でナウシカを最後まで全部映画にすればよかったんじゃないかなー。と、宮崎アニメとの出会いがナウシカだった世代としては思ったりもするのですが。まぁでも、漫画版ナウシカの残り全部を映画にするには普通の映画二本分くらいの長さにはなるのでそれを今自分がやるのはやっぱり無理って思ったんでしょうかね。

ともあれ長年お疲れ様でした。

って言ってて、もののけ姫の後みたいにまた引退撤回して結局復帰してくるなんていうこともあるかもしれないけど。。

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