2018年2月4日日曜日

ドライブレコーダーは「対策」ではなく原因の反復生産なのではないだろうか

ドライブレコーダーがちょっとしたヒット商品になっているそうです。背景にあるのは、昨年話題になった「あおり運転」の事件なのでしょう。「頭のおかしい輩の危険なあおり運転の被害者になる可能性は誰にでもある。だからせめてドライブレコーダーで自衛しよう。」という気持ちは分からんでもないのですが。でも僕はどうしてもあれを買って自分の車につけたいとは思えないのです。
しかし別に僕がそう思えないからといって、それで誰かが不利益を被るわけでも全然無いのです。たとえばこれが「安倍政権の在り方について」であれば、そうもいきません。実際にはそんな機会はほとんど無いものの、国の行く末を左右する案件については他人と議論する市民的義務をある程度は感じるのですが。ドライブレコーダーの是非というのは個々人の選択というレベルに還元されているので、特に議論の必要がありません。しかし、そのおかげで逆に「思ってることを誰かに言う機会が全くない」のです。だからこそ、「余計な心の機敏の掃き溜め」であるこのblogに思うところをしたためてみようと思います。

まず。「車の中の空間」は「インターネット」と並んで、「母胎内で守られた状態で外部空間と関わっている」というメタファーがこれ以上ないくらい適切に当てはまるのです。車の中にいると、実際は周りの人間からは「ある程度は見えている」にも拘わらず、あたかも誰にも見られていないかのような気分になります。だから我々は車の中では大声で歌ったりお鼻の掃除をしたり…と、他人の目がある場所ではできないことをいくらでもやってしまうわけです。
その空間にドライブレコーダーという「他人の目」が入ってくるのがどうも僕は嫌なのです。ドライブレコーダー積極導入派に言わせれば、「だからこそ『他人の目』が入ることによって運転が丁寧になるんだ」となるのでしょう。そこには一理あるのは認めるのですが、だからといって他人に監視されているような状況に常に晒されるのはやっぱりなんか嫌なんです。時々は人に聞かれたくないような青臭くて恥ずかしい歌を絶唱したいときだってあるじゃないですか。

そして、ドライブレコーダーに対するもう一つの懸念は「自分の過失も克明に記録されてしまう」ということです。僕は自分の運転技能は人並み以下だという自覚があって、いつか自分が重大な事故を起こすかもしれないと常に思いながら車に乗っています。ドライブレコーダーを買う人は「自分が過失を犯す可能性=ドライブレコーダーが自分に不利益をもたらす可能性」についてどう思って思ってるんでしょうかね?自分の運転技能の無謬を信じているんでしょうか。
やや脱線しますが、ドライブレコーダーのメリットだけを見つめて導入に踏み切れる人は、「9条を廃止して、軍備もどんどん増強すれば北朝鮮や中国に対する抑止力になるはずだ」というネトウヨの思考に近いんじゃないかと思うのです。もし日本が軍備を増強したら近隣諸国だって相応に軍備を強化してくるので軍事バランスに緊張がもたらされるのはちょっと考えれば自明なことなのですが。ネトウヨの皆さんの頭の中では外国は都合よく自分の思い通りに振る舞ってくれることにたぶんなっているのでしょう。ドライブレコーダーに都合のいいことだけ期待できるセンスはこれに極めて近いと思います。

ここ数年、特に2010年代以降、我々日本人の「他人を許す能力」は急激に低下の一途を辿ってどんどん0に漸近しています。例えば、他人の不倫にいちいち介入して断罪しようとする文春砲のようなものが市民権を得てしまっているのはその一つの表象だと思います。些細なトラブルが煽り運転に発展してしてしまうのは、相手を追い詰めたいという攻撃欲求を自制できない人が増えているということであり、これは個人の資質もさることながら「他人を許す能力が低下してしまった」時代と不可分の関係にあります。一方で、こういう人への対策としてドライブレコーダーを導入するのも、また別の形で「他人を許さない」という態度表明にしかなっていないと思います。
僕がドライブレコーダーを「なんとなく」だけど、でも「どうしても」嫌な理由は、突き詰めるとこの「他人を許す能力」の欠如が日本という国にもたらしているネガティブスパイラルの中に自分が巻き込まれたり加担したくないということなのでしょう。ドライブレコーダーを導入することは対策のように見えて、実は原因の反復生産なのではないでしょうか。

一応最後に対案らしきものを一つだけ提案しておきますが、「他人を許す能力」の涵養にはラテン国家での生活体験がベストだと思います。危険運転行為の刑罰には日本の刑務所で何年も服役させるよりもスペインへの数年の「島流し」の方がはるかに効果的だと思います。ドライブレコーダーを買う人にも同じ事が言えて、ドライブレコーダーの購入希望者はまずスペインで「研修」を受ける制度にしてみてはどうでしょうか。我ながら「面白い極論」レベルのことしか言ってない自覚はありますが、しかしそれでも僕が考えうる限りでは一番マトモな解決策なのです。