2019年3月3日日曜日

「便利」のコスト

コンビニ業界 転換点 セブン「脱24時間」実験へというニュースを見て、「とうとうこういう日が来たのか」という安堵のような気持ちと、「いずれこうなるってわかってたでしょ?」という暗澹たる気持ちが混ざったなんとも言えない気分になりました。コンビニ業界は外国人の技能実習生を店頭に立たせてまでコンビニという業態を死守しようとしていますが、そんな悪あがきをしたところでとうとう逆らいきれなくなったのでしょうね。
何度もこのblogに書いている話ですが、その昔スペインから日本に帰ってきたときの話をまたします。2年間スペインで生活して日本に帰ってきたときには、あまりにアレもコレも違い過ぎて日本人の世界に強烈な違和感を感じました。僕は6年以上経った今でもそれをずっと引きずり続けているのですが、そのうちの一つに、「夜が無駄に明るすぎる」というのがありました。都会ならまだしも、僕の住んでいるような地方都市でさえ深夜に開いてるお店がたくさんあるのです。その煌々とした光を放っているものの一つがコンビニです。

コンビニという業態はその名の通り、日本人に「便利は正義」という価値観を植えつけながら成長してきました。スーパーに比べたら値段が割高でもコンビニが成立するのは、コンビニが啓蒙してきた「便利」に対して我々日本人が合意の上で「便利税」として割高な料金を払ってきたからだと思います。その果てには「コンビニで手に入る物で生活はだいたい事足りる」というような人も結構な数いると思います。ここに至っては、日本人はコンビニの啓蒙する「便利は正義」という価値観に都合のいいように自己造形してきたとさえ言えるでしょう。
この「便利は正義」の自転車操業的な展開によって、コンビニは公共料金の払い込みやATM,コーヒーマシンに至るまであらゆるサービスを取り込んでいき、社会インフラの一翼を担うまでに至ったわけです。こうやってサービスを増やしていけばそれだけ店舗運営の労力は増えていくわけですが、それをフランチャイズ制という形で店のオーナーやその下のバイトに一方的に押し付けつづけるのにもとうとう限界がきたのでしょう。上記の東京新聞の記事にあるように、牛丼やファミレスなどの外食チェーンはもう数年前から不必要な24時間営業を見直す方向に舵を切っています。おそらく外食チェーンはフランチャイズ制ではないために不利益を押し付ける相手もいないのでコンビニより先にこうならざるを得なかったのでしょう。

日本のどこかしこも「人手不足」とは言ってるのですが、この「人手不足」には「都合よく安い給料で働いてくれる人材」という暗黙の但し書きがついているように思います。コンビニだってもっと給料払えば働きたいという人はいるはずですが、フランチャイズのオーナーにとって採算が合うような範囲では「人手不足」なのです。その窮余の策として外国人の技能実習生を店頭に立たせてなんとか凌ごうということになってしまうのだと思います。
じゃぁ今まではどうやって凌いでいたのか?と考えると、かつてそこを埋めていたのは「フリーター」だったのではないかと思います。今から20年くらい前に僕が学生だった頃は「フリーター」という業種の人が結構な数いましたが、最近はフリーターという言葉は最早死語の響きさえ帯びています。「なぜそうなったか?」の話をすると長くなるのでそこはさておき、かつてコンビニの24h営業を可能にしていたのは彼ら「フリーター」の存在に依るところが大きかったのではないでしょうか?

以上をまとめると。「便利の追及」の自転車操業によってコンビニは現在の地位を築き上げました。しかし、「便利」にするためのコストは膨らむ一方で、それを店舗オーナーやバイト(特にフリーター層)に押し付けながらここまで来ました。それがいつか破綻する日がくることはなんとなくわかっていたのですが、とうとう「便利」のコストを押し付ける先がなくなってしまったために24h営業が成立しなくなった…ということではないでしょうか。本当は「便利の追及」以上に本質的な問題として「日本の衰退」が背景にはあると思うのですが、それについて書いてたらまとまらないので、またいつかの機会にしようと思います。
これを書きながら、学生時代に毎日のように発泡酒を買いに行ってたコンビニのフリーターの店員の事を思い出しました。神田さん(仮名)という30手前くらいのフリーターの店員は、研究室からの帰り(深夜4時くらい)に行くとほぼ必ず店にいて、あんまり毎日通ってるうちに少しだけ挨拶を交わす間柄になりました。そのコンビニで昼間バイトしている大学の後輩に神田さん(仮名)について聞いたら「あの人フリーターなんですけど、あの人がいないとあの店は回らないんですよ。週6とかでシフト入ってますから。」と言っていた。神田さん(仮名)は今どこで何をやってるんだろう?たぶん年齢的には50歳に近いはずなんだけどな。。