2013年12月23日月曜日

スペインのクリスマス

日本に帰国して以来二度目のクリスマスを迎えようとしています。相変わらず明石家サンタがあって、ケンタッキーを中心としたフライドチキン戦争が激しくて…何から何まで日本のクリスマスです。「スペインに住んでいたんだから本場のクリスマスはさぞ楽しかったでしょう?」とか言われたことがあったのですが、実際のところそうでもないのですよ。クリスマスの日から年明けまではほとんどのお店が閉まっていて、人通りもまばらです。スペイン人的なクリスマスの過ごし方をする習慣の無い日本人の僕には、ヒマで仕方ない上にお店も閉まってて、あんまり楽しいものではなかったのですが。ともあれ今回はスペインのクリスマスの話をしようと思います。

バルセロナに住んでた当時、古式ゆかしき日本の伝統に従って我が家ではクリスマスの日にケンタッキーでチキンを買って食べてました。これは日本人にはものすごく当たり前のことなのですが、スペイン人の感覚から言うと相当有り得ないことなのです。日本人に直感的に理解しやすいように例えて言うなら、「お正月におせち料理とお雑煮ではなくて吉牛を食べる」くらいのことなんだと思います。こうやって例えると、欧米人にとって「クリスマスにケンタッキー」というのは相当おかしな習慣に見えるということがご理解いただけるかと思います。
とはいえ。僕はキリスト教徒でもなければスペイン人でもないので、クリスマスの日にチキンとケーキを食べる以外のことを何も思いつかなかったので。日本だと予約しないと買えないKFCがクリスマスの日にいとも簡単に買えてしまうことにすっかり味をしめて大喜びで買いに行ってました。実際のところ、クリスマスの日にKFCにチキンを買いに行くとほとんど店内には客がいなくて、中南米系と思われるバイトのお兄ちゃんがやる気なさそうに店番しているのでした。
そんなこんなで、このKFCの話は外人に日本のオモシロ文化ネタとして話すと、ウォシュレットの話と並んで必ずウケる鉄板ネタなのでよく自分からネタにしてました。

上記のたとえ話にあったように、ざっくり言うとスペイン人にとってのクリスマスは日本人にとってのお正月みたいな物なのです。だからクリスマスの日はだいたい家族で過ごすのが基本です。スペイン人と結婚した日本人の話では、クリスマスの時期は親戚一同含めて家全員が集まって、朝から晩まで起きてる時間の半分以上の時間をただごちそうを飲み食いして過ごすんだそうです。最後の方は食傷気味でうんざりするそうな。例えばクリスマスの時期に生ハムを一本(片足)買って、それを家族でクリスマス中に平らげたりするのはすごく普通のことで、クリスマス時期になるとゲーム機やシャンパンのCMと並んで生ハムのCMをよく見ることがありました。

そしてクリスマスといえば、"el gordo"と呼ばれる宝くじ。日本の年末ジャンボみたいなものなのですが、スペイン人の熱狂ぶりたるや日本の年末ジャンボの比ではありません。理由の一つは、賞金額が日本よりも高いから。そして、スペイン人は宝くじみたいに他力本願な射幸心をくすぐる物が元々大好きな上に、経済危機のおかげでさらに宝くじ熱が高まってしまい、経済危機でヤバいとか言いつつも宝くじの売り上げ自体は経済危機の前よりも後の方が上がってるそうです。こういうところがスペイン人。
そして日本と違って、同じ番号のくじが複数あります。切手シートみたいな感覚で同じ番号のくじが複数枚つづりになったシートを買って、それを職場や家族や友達に小分けして配るんだそうです。だから、当選すると自分だけでなく周りの人も同じようにお金がもらえることになるのです。日本の宝くじでよく言われる、「当選したことを秘密にする」みたいなことは無いんだろうと思われます。その昔、こういった相互扶助的な宝くじの贈与によって、小さな村の全員が一等に当選したこともあるそうです。

最後に、ケンタッキーの話とは逆に、日本人にとって理解不能な不思議な習慣がカタルーニャ州にはありまして。カガネと呼ばれるウンコ人形をクリスマスに飾る?のです。クリスマスが近づいてくるとみやげ物や屋台など色々な場所でカガネが売られているのです。スポーツ選手から芸能人、政治家、果てはアニメのキャラまで、あらゆるモチーフのカガネが売られています。
http://ameblo.jp/asonde-spain/entry-11099946552.html
我が家では在西時にドラえもんのカガネを買って日本に持って帰ってきました。ドラえもんのカガネはウンコが水色です。。このカガネは今も我が家の日本のトイレに飾ってあります。


2013年12月4日水曜日

斜陽の先進国スペインから日本が学ぶべきこと

先週一週間ほどバルセロナへ出張してきて、日曜日に日本に帰ってきました。寒かったことを除けばやっぱりバルセロナは楽しかったです。あそこにいると、それだけで自分が何かしら開放されたような気分になれるのです。さて一方、日本に帰ってきてテレビをつけると12月から就職活動が解禁になったとかで、大学3年生の学生さん達がリクルートスーツに身を包んで企業説明会に参加している映像がニュースで流れてました。
なんというか、直感的に言って”スペイン的”から一番遠い”日本的”な映像を見た気分になりました。そのニュースでは、地方の大学が学生の就職活動を支援するために無料でバスを東京や大阪に走らせるという取り組みについても紹介していたのですが。大学も学生も、日本はこんなに日本人を必要としていないということは分かってるはずなのに、それでもまだみんなで一連のシステムにしがみつこうとしてるように見えてしまったのです。
大学側も日本で普通に就職するだけじゃなくて、もっと他に道を示してあげればいいんじゃないかな?と思うんですけどね。例えば、自分達で起業する人を支援するとか、海外に就職する道を支援するとか。まぁ、当の大学は少子化で学生が減っていく中で自分達自身の生き残りに必死で、だから結果として学生をお客様扱いして手厚い就職活動支援をしてるのでしょうが。

というわけで今回は国全体の失業率が25%、若者の失業率に至っては50%を超えている地方もあるスペインという国と日本をちょっと比較してみようと思います。まず。この失業率はスペイン人にとってたいへんに深刻な問題であることには確かなのです。でも、スペイン社会は”失業率50%”と聞いて日本人が想像するような(極端に言うと北斗の拳みたいな)世界ではありません。とりあえず表面上はみんなヘラヘラ楽しそうに暮らしています。
何が違うってまず、日本みたいに職歴に空白があることが好ましく無いとする風潮はスペインには全くありません。スペインではほぼ全員が契約社員のような雇用形態で、契約を更新せずに契約期間が満了したら従業員は会社から放り出されるのが当たり前なのです。なので職の移行期間に一時的に無職の状態になるのは割と普通にあることなのです。このシステムを積極的に活用して、一年契約で働いてその後半年旅行して、お金がなくなったらまた働いて…というようなサイクルを繰り返すような人も普通にいます。よって失業しているという状況を、経済面はさておき、社会的なステイタスとして日本ほど否定的にとらえてはいないと思います。
また、失業給付が割と充実していているので失業給付でなんとか生活できなくはないみたいです。そして、失業給付をもらいつつもこっそり働く人もいます。企業側にとっては失業給付をもらいながらなので給料を比較的安くできたり社会保険料も払わなくてよい、働く側としては失業給付と仕事の給料の両方がもらえる、といった具合に労使双方にメリットがあるのです。なので、本当の失業率は統計に出てくる数字よりはもう少し低いんだとは思います。

そしてよく言われることですが。ラテンなので陽気なのです。陽気というよりは、日本人の僕の感覚から言うと「物事を深刻に考える才能に最初から恵まれてない」という言い方の方が妥当だと思います。スペインに在住してたときに「平成狸合戦ぽんぽこ」という映画を見たのですが、この映画に出てくる「環境破壊によって少しずつ生活を脅かされつつもどこか楽天的で悲壮感の無い狸たち」が、経済危機が深刻で本当にヤバいとか騒ぎながらも普段はヘラヘラ楽しそうにしているスペイン人と一緒に見えたのでした。
実際のところ、自殺率は日本の方がスペインの三倍も高いんだそうです。スペイン人はカトリックなので自殺を禁忌としているのもこうなる理由の一つなんでしょうが。それだけじゃなくて、お金が無くても仕事が無くてもそのことを深刻に考えたり思い悩まないということや、家族の結びつきが強いので家族の相互扶助がセーフティーネットの役割を果たしていることなども自殺率の低さに寄与していると思います。
スペインに在住当時に、「そんなに仕事が無いなら日曜日もお店を開ければ仕事が増えるんじゃないか?」と言ったら、「そんなことしても、企業は今いる従業員に対して同じ給料で日曜日も働くように要求するだけで雇用促進の効果は無い。」と返されました。また、経済危機だからって無理矢理新しい食品を作り出そうなんて考える気は彼らには全然無いのです。

スペインやポルトガルなどの国は大航海時代の後からもう400年以上もずっと斜陽国なのです。20世紀のポップカルチャーの歴史を語る際の背景として、イギリスが斜陽国であったことがよく取り上げられますが。斜陽であること、もっと簡単に言うと”ダメであること”に動じずに受け入れることにかけてはイギリスなんかよりもスペインやポルトガルは経験値がはるかに高いんじゃないかと思います。日本や韓国のように「ダメな人(最低限の社会的ステイタスを維持できない人)に生きれる道を示さない社会」は経済成長がある程度ひと段落した後は、どうしても自殺が増えるんじゃないかと思うのです。
安倍晋三は失われた20年を取り戻すとか言ってましたけど、日本がバブル期みたいな景気に戻るのはどう考えたってもう無理でしょう。たぶんよくてこのままくらいなんじゃないでしょうか。もう昔のような景気には戻れない日本や韓国がこれから先をよりよく生きるために、斜陽の先進国であるスペインやポルトガルに学べる事は多いんじゃないかと思います。