2023年2月12日日曜日

文化政策とフェイクの伝統

今年(2023年)に入ってすぐに、東京国立博物館が予算不足でこのままでは文化財を保護できないという問題が持ち上がりました。そして今度は、東京藝大が予算削減のためにピアノを撤去というニュースが流れてきました。直接の原因はウクライナ戦争以降のエネルギーコストの高騰なのでしょう。ご存じの通り庶民の生活も大きな打撃を受けています。しかし、こんなときこそ文化インフラは世間の浮き沈みとは離れたところで国によって手厚く保護されて然るべきではないかと思います。

 10年もblogをやってると、自分が言いたいことはだいたい昔の自分が言ってるので、今回も言いたいことは昔ここに書いた通りです。クールジャパンに代表されるこの国の文化政策は、「市場原理=お客様にウケるか」が基準になっています。つまるところ、自国の文化についてのポリシーを自分たちでは決められない、市場=お客様にゆだねるということです。だから東博や東京藝大のように市場原理から離れたものにはこの国は冷たいのだろうと思います。

本当は市場原理から離れたところにあるものほど、国が予算を出して保護したりするべきものであるはずなのですけどね。特に、東博なんて日本の国宝級の文化財を多数収蔵しているのですから。日本という国の歴史と伝統を重んじる人であれば、このような状況には異議を唱えて然るべきだと思うのですが。僕の知る限り日本の右翼層がこの件について声を上げているところを見たことがないのです。

斎藤環が指摘していたように、日本のネトウヨ層にとっては客観的な史実としての伝統ではなく「伝統ぽく見えるもの=フェイクの伝統」の方がリアリティをもって受け入れられるのだと思います。例えば夫婦別姓なんてその典型例でしょう。元々日本人の大半は明治維新まで苗字がなかったわけですから、「伝統」の観点から言えば結婚後の姓がどうなろうが構わないはずですよね?

ちょうど最近、岸田首相が同性婚の是非について「社会が変わってしまう」と言って否定的な見解を示したことが問題になっていましたが。そもそも日本は古来より性についてはかなりラディカルな国だったはずです。これも明治以降に作られた「フェイクの伝統」への固執だと思います。

 

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