2016年8月17日水曜日

岸田秀の日本論:内的自己と外的自己

かなり更新が滞っておりましたが、気が付いたら夏休みになりました。今年の夏休みはテレビをつけたら昼は高校野球、夜はオリンピックをやっているので、もし子供にテレビのチャンネル権を独占されていなかったら、一日テレビの前で廃人になって過ごしていたことでしょう。
さて、ここのところなぜ更新が滞っていたかというと、自分にとって"それなりに人生変わる"ほどの影響を受ける作家と出会って、それについてこのblogに書こうと思って次々とその人の本を読んでたら、すっかりとっちらかって何をかいていいのだか分からなくなってしまったのです。とはいえ、夏休みで時間もできたことだしぼちぼちそれについて書いてみようと思って思い腰を上げた次第です。

というわけで今回は岸田秀という作家について思うところをとりあえず書いてみようかと思います。岸田秀はフロイドの精神分析のコンセプトを日本という国家そのものに対して適用する試みによって80年前後の所謂「ニューアカデミズム」がブームだった時代に脚光を浴びた人物です。岸田秀の思想、主張の概略は「分かりやすく説明する名人」である内田先生のblogをご参照ください。そこまで内田先生に乗っかるのかと思われるかもしれませんが、重要なエッセンスをコンパクトかつ的確にまとめている記事が内田先生のblogくらいしかネット上に見つからなかったのです。。
一応自分の言葉で岸田秀の一番有名な著作である「日本近代を精神分析する」の趣旨を言い直してみると、日本という国は「長年の鎖国によって数百年に渡って平和に自閉してきたところを、ペリーによって強姦されたことで精神分裂状態に陥った」のだそうです。このとき日本人は「外的自己 = 他者や社会との折り合いをつけるための表面上の振る舞いを担当する役」と「内的自己 = 外的自己とは反対の妄想的な自己愛、ナルシズム」に分裂しました。幕末における「開国派」と「攘夷派」の対立構造はそのままこの外的自己と内的自己の関係に符合しています。

この岸田秀の「内的自己と外的自己への精神分裂」という観点から見ると、三島由紀夫の自決、吉田松陰の無謀で過激な行動、真珠湾攻撃から始まる対米戦争はすべて「内的自己の暴走」という一言で説明されます。また、「日本近代を精神分析する」が著された70年代半ばの日本ではまだ顕在化していなかったのでしょうが「ヤンキー」も、内的自己の顕在化の一つであると言えるでしょう。
そして、「日本近代を精神分析する」には「抑圧された日本人の内的自己は、戦後においては経済成長に表現の道を見出した」とあります。つまり戦後の日本は、内的自己と外的自己に分裂したままでありながらも、内的自己が経済成長によって程度満足されたおかげで、精神分裂の症状がそれなりに緩和されてきた平和な時間が長く続いていたということです。しかし、「抑圧された物は必ずいつかは回帰する」と同著で預言されている通り、バブル崩壊以降経済が失速した日本では内的自己がナショナリズムの台頭という別の形(というよりもこちらが本来の形なのですが)で顕在化して今に至っています。

この他にも、岸田秀の「内的自己と外的自己への分裂」というモデルが現代の日本の有り様を適切に説明できる事例は枚挙に暇がありません。たとえば昨今の「おもてなし」「クールジャパン」やテレビの「日本スゴい番組」は「外国からの目を気にする = 外的自己」のフリをした内的自己へのセルフ接待だと言えるのではないでしょうか。
こういった事例は未だに日本人が「内的自己と外気自己」の分裂状態の中にあって、そこから抜け出せないどころかむしろ症状が悪化していることを示しているように思えてなりません。特に3.11の震災のときから、明らかに日本は致命的に何かが変わりました。何がどう変わったのかうまく説明できる的確な言葉がずっと見つからなかったのですが、岸田秀を援用して考えると、3.11の震災は日本人を「内的自己の暴走」へと駆り立てたのではないでしょうか?それが現在のように安倍政権が暴走しているにも関わらずここまで支持されていることにも繋がっているとすると、「内的自己と外気自己」モデルはペリー来航から現在までの日本の歴史を的確に総括出来てしまうと思います。

昨今のナショナリズムの台頭に「日本は戦前へと回帰している」と警鐘を鳴らす人に対して、右寄りの人は判で押したように一笑に付すような態度に出る人が多いように思うのですが。日本がペリーの来航以来ずっと精神分裂状態であると仮定した上でこれまでの歴史を俯瞰すると、問題の根幹は戦前と同じ「内的自己の暴走」だと言えます。これを踏まえた上で考えると、「日本の右傾向化が再び太平洋戦争と同じ規模の災厄をもたらす可能性がある」という危機感を持つのは極めて合理的だと僕は思いますよ。

岸田秀は他にも色々面白い事を言ってるのですが、書き始めると収集がつかなくなるので今日はとりあえずこのへんで。。

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